Shadowrecommends / Shadow Times 編集:三木学
(2013.10.13_Shadow Times Vol.47 「砂漠のクロスロード」より)
"Quiet River, Seoul"について

山内亮二の作品は、グローバリズム化が進んでいき、その巨大な資本の力が地球を表皮のように包み、 均質化していく都市の中で、綻び、剥がれ、亀裂を生み出している各都市の記憶や残像を写し出そうとしている。
鮮やかに切り取られたスナップショットは、山内の言う「都市の考古学」的アプローチによって、その亀裂を丹念に蒐集する行為に他ならない。
グローバルな資本によるビルや商業施設、住宅施設がどれほど発達しても、都市固有の記憶が様々な瞬間に顔を出し、また均質であったはずの空間も、 気候や人々の生活によって日々変質していく。
今回、山内が被写体としている冬のソウルの風景は、近代化した景観のほとんどが日本の都市と変わらない。 しかし、半島的な気候によって彩度が低く色褪せた風景が、日本の都市とは違うパラレルワールド的な雰囲気を醸し出している。
大気によって漢江の水と空は色褪せて繋がっているようにさえ見える。また、一見見覚えのある風景にある人々の顔や服装、看板やサインのズレを上手く描き出している。
通信や交通が発達し、資本が巨大化していくと、都市の姿や我々の心は、時代を経るごとに似ていくだろう。そして絶え間ない人々の往来、通信や物流を通して我々の心も通いあっていく。しかし、時に「歴史」が顔を出し国の境界を先鋭化させ、人々の心にも壁を造っていく。都市と同時に「歴史」もまた均質化しているとも言える。
空前の韓流ブームの後に起きているヘイトスピーチが移り気で膠着した我々の心の状況を表している。 均質化していく都市や歴史だけではなく、それらの差異に目を向け、互いに差異を許容していくことが、心の振り子を緩やかにする術だろう。
山内の写真は、都市の亀裂から顔を覗かせる記憶や繊細な差異を丹念に切り取り、我々の前に差し出す。 それはあからさまな差異を強調するのではなく、連続性の中に不連続面を見出していく冷徹な視線でもある。 それは都市の考古学であると同時に、我々の心の振り子を緩やかにしていく心の考古学でもあるだろう。



フォトプレミオ2013 入選レビュー (2013年度選考委員:柳本尚規、秋山亮二、中藤毅彦)
"Quiet River, Seoul"について

---韓国のソウルを流れる「漢江」のイメージを通奏低音のように響かせた静かな映像です。 私たちが知っている韓国、ソウルのイメージとは少し違う世界を見せてくれた写真だと思います。
「確かに、韓国のこういう姿は知りませんでした。もちろん、どこへ行ってもこうした多面性はあると思うんですけど、 私たちが既に知っていると思っていることに、いかに偏りがあるかということをあらためて思い知らされました。 写真によって知らなかった部分を見せられるというのは、とても貴重なことだと思います。」
「気負うことなく自分の身の回りに展開する光景を淡々と見つめてる感じがして、それが韓国、ソウルの違った面を引き出しているのかもしれません。」
「色調も意識して少し彩度を抜いたようにしていますよね。しっかりコンセプトを立てた上で色使いや撮り方を工夫していると思います。」

---細やかに人々の表情や街のディテールなどもよく見ていると思います。
「そうですね。だからこそ、一種のメランコリックな空気が作品全体に流れていて、作者の一本筋が通った視点が貫かれていると思います。」
「ソウルといえば、もっと賑やかな印象を受けていたんですが、見方を変えれば、 そこに生きる人々の悲哀とかいろいろと見えてくる部分がやっぱりあるはずで、作者はそこをしっかり見つめられる目を持った人だと思います。」